名古屋地方裁判所 平成4年(行ウ)14号 判決
原告
川口充久
被告
名古屋市固定資産評価審査委員会
右代表者委員長
朝見行雄
右訴訟代理人弁護士
鈴木匡
同右
大場民男
右訴訟復代理人弁護士
堀口久
事実及び理由
第三 争点についての判断
一 本件登録価格の適否について(争点1)
4 そこで、次に原告の主張について検討する。
(一) 標準宅地の選定に関する固定資産評価基準の内容は前示2(三)のとおりであるが、さらに、〔証拠略〕によると、昭和三八年一二月二五日自治乙固発第三〇号自治事務次官通達「固定資産評価基準の取扱いについての依命通達」により、「「市街地宅地評価法」における標準宅地は、宅地の利用状況を基準として区分した地区ごとに、当該地区における主要な街路に沿接し、路線価付設の拠点となる地域に所在する宅地で、奥行、間口、形状等その画地条件で当該地域において標準的なものを選定するものであること。なお、標準宅地は、一般的には、宅地の価格事情からみて相互の価格差が二割程度の地域ごとに選定することを目途とすることが適当であること。」とされていることが認められる。
そして、原告は、右通達を前提とした上、本件各土地は一大住宅団地であって、その団地の中には縦横に私道があり、住宅管理組合が結成されていて所有者といえども現状を変えることは禁止されているから、完全な住宅地区であるのに、被告が選定した標準宅地(別紙1の七〇二一の箇所)は商業地区で、両者の価格事情は異なっていると主張するけれども、本件各土地及び右標準宅地はいずれもいわゆる山手通に面する宅地であって、前示3(二)のとおり、いずれも商業地区の周辺部等において住宅が混在するが小店程度の店舗又は事務所の多い地区として住宅地区の一つである併用住宅地区に属するとされたものであり、両地が街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて相当に相違する地域に属するとみるべき事情は窺われない。したがって、市長が本件各土地及び右標準宅地をともに併用住宅地区に属するとしたことに不合理な点はない。
また、原告は、本件各土地の売買実例価額は平方メートル当たり三〇万円以下であるとし、これを裏付けるものとして、本件各土地を敷地とする区分所有に係る建物である八事本町住宅についての不動産仲介業者の広告を証拠(甲三ないし九)として提出し、本件における標準宅地(別紙1の七〇二一の箇所)の選定は、宅地の価格事情からみて相互の価格差が二割程度の地域ごとにされていないから、右の通達に反するものであると主張する。しかし、右の広告は、建物の区分所有権及びその敷地利用権の価額について売主側の希望価額を示すものにすぎず、また、建物の価額と敷地利用権の価額の割合も明らかではない。そして、一般にマンションの取引価額は、区分所有建物の専用面積、共用面積、建築後経過年数、所在階等に大きく左右されるものであって、右広告にかかるマンションの取引価額からこれに含まれている敷地利用権の取引価額を算定することは、極めて困難というべきである。しかも、原告が本件各土地の売買実例価額として主張するところの一平方メートル当たり三〇万円以下という価額は、区分所有建物が存する敷地の利用権(共有持分権)の価額を根拠として算定しているものと解されるところ、仮に、マンションの取引価額からその敷地の共有持分権の価額を算定することができるとしても、共有持分権は当該土地全体を対象とする割合的権利であるから、その価額は、敷地の総面積に持分割合を乗じて算定した面積の土地(敷地中の一定面積の土地)の価額を示すものではない。そして、共有持分権は、その性質上、土地の使用収益について制約を受ける権利であるから、その売買価額は、土地全体を売買した場合の時価に持分割合を乗じて算定した額より低額になり、したがって、また、共有持分権の売買実例価額を持分割合で除して算定した価額は土地全体を売買した場合の価額(時価)を下回るのが通例である。そうすると、原告が共有持分権の売買実例価額を基に算出した本件各土地の一平方メートル当たりの金額(その算出方法は明らかではないが、マンションの売買実例価額から敷地の共有持分権の売買価額を算出した上、これを敷地の総面積に共有持分割合を乗じて算出した面積で除するといった方法により算出したものと考えられる。)は、本件各土地を一括売買した場合の一平方メートル当たりの売買価額を下回っているものと考えられる。したがって原告の主張する売買実例価額をもって、本件各土地自体の売買実例価額であるとすることはできない。
そうすると、右標準宅地と本件各土地について、相互の価格差が二割を超えることを根拠に右標準宅地の選定を誤っているとする原告の主張は、失当というほかない。
(二) 次に、原告は、本件各土地は九二人が共有しており、各共有者が住宅の一部としての利用価値と交換価値を有しているにすぎないという特殊な状況にあることなどから、隣地の三〇パーセント以下の価額でしか売買できないという事情にあるのに、このような事情を考慮しないで、本件各土地を不当に高額に評価したと主張するけれども、固定資産評価基準は、前示2のとおり、土地の価格の評価は、標準宅地の売買実例価額等に基づいて付設された路線価により一画地の形状等に応じて算出すべきものとしており、当該画地の所有の形態を考慮すべきものとはしていないから、土地の価格の評価に当たっては、土地の共有持分権の価額ではなく土地そのものの価額について判断すべきものであり、原告の右主張は採用することができない(なお、法は、固定資産税の納税義務者をその所有者とし(三四三条一項)た上、当該固定資産が共有物である場合には、納税者である共有者が連帯して納付する義務を負うのを原則とし(一〇条の二第一項)、区分所有建物の敷地のうち一定のものについて、例外的に、その共有者において当該敷地の固定資産税額を共有持分により按分した額を納付すべきものとしている(三五二条の二第一項)のであって、このことから明らかなように、法は、本件のようにマンション敷地が共有である場合でも、固定資産税の課税標準である固定資産の価格(三四九条)は、その敷地の持分権の価格ではなく、敷地の価格とすべき旨定めている。)。
また、原告は、固定資産評価額と時価との比率が他の土地のそれと比較して不公平である旨主張するけれども、原告の主張する本件各土地の時価は、土地の時価ではなく共有持分権の時価に基づいて主張されているものと解されるから、(一)において判示したところからして、その前提において理由がないというべきである。
なお、原告は、本件各土地の評価は別紙3のCの土地の評価との比較においても不公平になっている旨主張するけれども、仮に原告の主張するような差異が存するとしても、別紙3の図面上、本件各土地(同図面のAの土地)とCの土地とでは、その面する道路等その位置関係に差異があることは明らかであるから、右主張は採用できない。
(三) また、原告は、正面路線に三種類の路線価を付設したことが違法である旨主張するが、固定資産評価基準によれば、前示2(五)のとおり、市町村長は宅地の状況に応じ必要があるときは「画地計算法」の付表等について所要の補正をすることができるとされているのであり、本件において、前示3(六)のとおり、価格に対する横断歩道橋の影響を考慮に入れて路線価を修正し、正面路線に三種類の路線価を付設したことが、直ちに固定資産評価基準に反する取扱いであるとはいえない。
5 以上のとおりであるから、本件登録価格は、固定資産評価基準に従って適法に決定されたものと認めることができる。
二 審査手続の適否について(争点2)
1 法によれば、固定資産評価審査委員会(以下「委員会」という。)は、審査の申出を受けた場合においては、直ちにその必要と認める調査、口頭審理その他事実審査を行わなければならず(四三三条一項)、審査を申し出た者の申請があったときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続によらなければならないとされている(同条二項)。そして、委員会は、当該市町村の条例の定めるところによって、審査の議事及び決定に関する記録を作成しなければならないとされている(同条三項)。
2 そして、本件においては、〔証拠略〕によると、以下の事実を認めることができる。
(一) 原告は、本件審査申出に際しては、審理方法として書面審理を希望し、口頭審理によることを申請しなかった。
(二) 被告における審査手続に関しては、法四三一条、四三三条四項、名古屋市市税条例五三条に基づいて名古屋市固定資産評価審査委員会規程(昭和二六年固定資産評価審査委員会告示第二号、以下「被告規程」という。)が制定されており、これによれば、被告は、審査の申出を受けた場合において、必要があると認めるときは、市長に対し、期限を定めて、審査の申出に係る答弁書及び関係資料の提出を求めることができ(一五条の二)、書面審理を行う場合において、必要があると認めるときは、審査申出人に対し、市長の提出した答弁書の写し及び必要と認める資料の概要を記載した文書を送付し、期限を定めて弁ばく書の提出を求めることができ(一六条一項)、さらに、必要があると認めるときは、市長に対し、審査申出人の提出した弁ばく書の写しを送付し、期限を定めて再答弁書の提出を求めることができる(同条二項)とされている。
なお、被告における取扱いとして、答弁書等の文書の送付や答弁書の提出の要求については、一々審理を経てから行うのではなく、迅速な処理のために、書記において事務的に行うこととしていた。
(三) 被告は、本件審査申出の後、別紙4「審査申出処理経緯書」記載のとおり、市長に対しては合計五回にわたって答弁書の提出を求めてその提出を受け、原告に対してはその都度その写しを送付し、原告からは合計四回にわたって弁ばく書の提出を受け、市長に対しその都度その写しを送付しており、この間、平成三年六月一七日、八月二八日、九月一九日、九月二五日の四回にわたって書面審理を行った。そして、同年一一月一四日、原告が電話でこれ以上弁ばく書の提出はしないので速やかに結論を出して欲しい旨を連絡してきたので、同年一二月一八日、それまでに提出された全書面に基づいて最終の審査を行い、本件決定をするに至った。
なお、市長は、第一回答弁書において、本件各土地の沿接する街路の路線価及びこれに基づく画地計算の概要を示し、第四回答弁書において、本件各土地の正面路線の標準宅地の路線価の付設の根拠を示した。
(四) 被告規程によれば、書記は、審査の議事については、審査の日時及び場所並びに出席した委員の氏名、口頭審理を行った場合にはその要旨、そのほか、審査の議事に関する事項で特に記録を要すると認められるものを記載した調書を作成しなければならないとされている(一九条)が、本件審査申出に関しては、被告の書記伏屋譲次が、審理形態、審査の日時及び場所並びに出席委員を記録した調書を作成した。
3 右の認定事実によると、原告は被告に対し口頭審理によることを申請しなかったのであるから、被告において右2(三)認定のような書面審理を行ったのみで口頭審理を行わなかったことは適法というべきであり、また、被告は、市長及び原告からそれぞれ複数回にわたって答弁書及び弁ばく書の提出を受け、しかも、原告からはこれ以上弁ばく書の提出はしないとの連絡を受けた後に最終の審査を行ったものであるから、被告としては適法に必要な調査を行ったものということができる。さらに、審査の議事に関する記録についても、被告規程に従って適法に作成されたものというべきである。
原告は、書面審理による場合においても、被告は書面を受け取った場合には、その都度審理を行わなければならないと主張するが、そのように解すべき根拠はない。被告規程一六条には、委員会は「必要があると認めるとき」に審査申出人等に対して文書の写しを送付する等の規定があるけれども、右2(二)認定のとおり、被告は迅速な処理のために書記において事務的に同条の手続を採ることとしていたものであり、そのような取扱いは同条の趣旨に反するものではないというべきである。したがって、被告が提出された書面を受け取った後審理を行うことなく、これを相手方に送付してさらに書面の提出を求めた点については、何ら違法な点はないというべきである。
また、原告は、市長の提出した答弁書には多くの誤りや矛盾があるのに、被告はそれを何ら審理することなく本件決定をした旨主張するけれども、市長は、右2(三)認定のとおり、本件登録価格の決定根拠を答弁書によって主張していたのであるから、審査申出人である原告に対しては、不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲で評価の手順、方法、根拠等が知らされたものということができる。したがって、原告は、これらの答弁書に対して書面を提出して反論する機会を与えられたのであるから、書面審理の手続は適法に行われたものというべきであり、一において判示したところからしても、本件決定がずさんな審理に基づいて行われたということはできない。
以上のとおりであるから、本件審査申出にかかる審査手続は適法に行われたものであり、原告の主張はいずれも採用することができない。
三 結論
以上の次第であるから、本件決定は適法であり、原告の本訴請求は理由がない。
(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 後藤博 入江猛)